Redundanz

僕の言葉は、人と話をするためにあるんじゃない。

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 2001年宇宙の旅を観てきました。家を出るのが遅くなってしまい、ぎりぎりで六本木ヒルズに到着。券売機の方はすでに販売終了していて、受付の人に頼んで発券してもらいました。本当にギリギリだった。
 ちょっと遅れて入場したので、原始人類が道具を使いはじめる辺りから視聴開始。ヒトザルのメイクがやたら凄かった。ツァラトゥストラをバックに、放り投げた骨の武器が核ミサイル衛星に切り替わるシーンはやはり素晴らしい。この映画は全体として特撮のレベルがほんとうに高いです。本当に1968年の映画かよ。まあ時々、ちょっとこれは宇宙ではこうはならんのではという挙動をしたりするのだけど。とはいえそんなシーンは微々たるもので、宇宙船とステーションのドッキングシーンなど、贅沢に見せるなあと思いました。(しかしシャトルをステーションの回転に合わせて自転させながら姿勢制御するのは難しいのではないかね)SF映画を見ていてもこういう風に宇宙そのものを描いたシーンってなかなか無いのです。単純に広大で空気と重力がないだけの舞台装置に終らせずに、その深遠さをゆったり描いているのを見て、なんかいいなあと感じました。ああ、そういう意味ではゼログラビティはなかなかの良作だったな。そしてそのルーツがここにあるのだ。
 舞台は地球軌道や月面から一転してディスカバリー号船内へ。はじめボーマン船長とプール副長がどっちがどっちか分からず混乱したのですが、目の綺麗なほうがボーマンだと気付いてからは見分けられるようなりました。ひどい。そういえば地球からのインタビューのシーンで、これは8分の通信の遅れを編集しておりますって断りがついていたけども、あんなに適当な相槌で8分使っちゃって良いのかしら。それから、ボーマンたちがタブレット端末使っていたのも印象的です。この映画、コンピュータに関してほとんど古臭さを感じない。確かに、最近のコンピュータのような芸術的装飾がインターフェースになされているわけではないけども、そのコンセプトは十分現代のものに通じるのです。流石IBMが協力していただけのことはある。そしてその極め付きがHAL9000でしょう。無感動なくせに誇り高く、若干人間を小馬鹿にしたような口調がほんとうに良い。人工知性万歳である。彼の目の赤い光を見ると、僕は真っ先にターミネーターを思い出すのだけど、アレはこれのオマージュなのだろうなもちろん。そういえばHALとボーマンのチェスのシーンにはミス(実はチェックメイトではないらしい)があるらしいのだけど、一瞬だったので追えませんでした。もしかしてこれは、完全無欠のHALがボーマンに敗北することの暗示なのかもしれない。そうこうしているうちに、HALが任務に関する不安をボーマンに漏らすシーン。全編見ればわかるのですが、HALには実は、任務の極秘の内容が知らされており、ここでHALの吐露した疑惑は、彼にとっては既知のことだったはずです。それなのにわざわざ何も知らないふりをして、ボーマンに任務への疑惑を打ち明けたHALは、一体どういう結果を望んでいたのだろうなと考えました。彼は二律背反を解消したかったはずなのです。ここでボーマンが違う対応をしていたら、話の流れは全く変わっていたのかもしれません。まあこれがシナリオである以上、そのような想像をすることは無意味なのだけど。直後AE-35ユニット故障の知らせ。これはHALが意図してやったことなのか、単に彼の初めてのミスなのかわかりませんが、不穏な空気が漂い始めます。この辺りの、主体がありそうでないようなHALの立ち位置的な曖昧さが生じさせる、現象と意図との間の不安定な揺れが、効果的に働いているのを感じます。知性と非知性の間の不気味の谷とでも言うような何か。すごいな、本当に。HALの提案の人間離れした論理性も良い味を出していたしね。ああ、ちなみに、HALがミスを犯した可能性を地球の同型機が指摘した、との報が入るシーンが個人的にはアツかったです。人工知性が人工知性を計算する場面って昔からなんとなくくるものがあるのですよね。その超越的なやりとりに憧憬の心をくすぐられるのだ。人類最高の知性の前で唇の動きを見せちゃうのはどうなのとか突っ込んでいる間にHALは乗員を抹殺し始め(人工睡眠装置の電源を切られるのちょー怖い)、ボーマンがHALを停止させ(デイジーデイジー、僕だって理性を失いたくないぜ)、モノリスに接触したボーマンはその中に取り込まれます。にわかにサイケデリックな様相を呈し始めるスクリーン。どうでもいいけどキューブリックLSDやったことあるのかな。ボーマンを載せた船外活動ポットが卵子に飛び込む精子に見えたっけ。モノリスの中の謎の世界でボーマンは一生を高速で体験し、老人として死に、そして赤ん坊として再誕する。このへんはいったいどういう意味を持っているのかよくわかりませんでした。モノリスの目的も謎なまんまだし。そして最後に、またツァラトゥストラが流れて、エンディング。さてさて、この後人類はどこへ向かってゆくのだろうか。
 2時間半の映画でしたが、あっという間でした。これを映画館で見られたことはなかなかの僥倖だと思います。Wikipediaにも「映画は70mmシネラマ規格で製作された。キューブリックは映像表現にシネラマスクリーンでの上映効果を最大限に狙っている。シネラマスクリーン以外の映画館やビデオでの鑑賞は監督の意図にないため、2012年現在の日本においてはキューブリックの意図した映像表現を存分に感じられる環境にない」って書いてあるしね。

 映画を見終わってから、カフェで微分方程式の勉強をしていました。去年の僕はこんな簡単な計算のどこで躓いたのかよくわかりません。読めば書いてあることを理解していないのは、怠慢以外の何物でもない。僕は本当に愚かだったと思います。そして今更ながら、物理が少し面白くなってきてしまった。やれやれ。

 夕方からバイト。JJMO予選の問題を解かされたのですが、結局回答できませんでした。くそう。何かうまいやり方があるように思うのだけど、3時間かけて全く見通しが立たず、諦めました。悔しいのでまた今度考えます。しかし、こんな問題を中学生が解けるものかね。(明らかに試験中には解くべきでない問題なのですが)