読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Redundanz

僕の言葉は、人と話をするためにあるんじゃない。

夢の話

 どうやら眠れないらしいから、今見ていたはずの夢を記すよ。自販機で買った缶コーヒーの苦味で、眠気をこちらに描き出す。いつの間にか室内は冷えていて、縮こまって震える空気の粒に思いを馳せる。彼らはいつだって与えたり奪ったり忙しい。相互作用をやめたって、僕は君を覚えているよ。だからたまには休んだら?
 眠る代わりに目を閉じる。明かりを透かした赤い色。赤よ赤よなぜ赤い、僕の見てないお前は何色。
 瞼の裏に桜の花びらの一枚、ひらひらと舞っているのを見る。不規則なゆらぎが日光と織りなす桜色の明滅。幼いころに作ったおもちゃのモータを思い出した。ぐるぐる巻いたエナメル線があんな風にからりからりと回っている。そんな思い出を飲み込んでそれから花びらはららりりと絡み合う小川のせせらぎに落っこちる。水底の小石がことことと歌う。何故だか生き物は一匹も見えない。
 流れる桜を目で追ってゆくと、ふと視界がひらけて遠くの青々とした海が映る。水平線が丸いけど、あの丸さは地球の丸みそのものではないことを僕は知っている。海面の凸凹がぱちぱちと陽光を弾く。高層ビルから見下ろした雑踏のような静けさがあって、その向こうで海と空とを雲が仲裁している。
 雲の形が何々に見えるとは言うけれども、何々の形が雲に見えるとは言わない。当たり前。
 大海原を航海する一隻の船が見える。遠くにあるのでゆっくりと動かそうと試みる。気を緩めるとすぐ急いでしまう。想像の世界はなかなか意のままにならない。
 高度が上がり、視線は左方向へ。入り江のある光景。砂浜があり崖がある。崖の上には小さな小屋があって、もう少し丘へ登ると深緑の森が広がっている。小屋の中に何があるのか僕は知らない。案外ブラックジャックなんかが住んでいる可能性もある。覗き見するのはやめておく。
 森に入るとなにやら獣たちの鳴き声がする。時折がさごそと何者かがうごめく気配もある。けれど姿は見えない。と思うとヘビがいたので頭を踏んで殺した。煮干しを齧るような感触があった。ここは危ない早く先へ進もう。
 しばらく探索を進めると石造りの神殿に辿り着いた。いや僕には神殿に思われるけれども実際は違うのかもしれない。神なんて人間的な。中に入り周りを見渡すと、石の壁に刻まれた蛇ののたくったような象形文字が厳かに青白く光っている。手を触れるとほんのりと暖かい。ついさっきまで生きていたみたいだと思う。
 文字に手を重ね、ざらざらした暖かさを感じながら、僕は壁を押す。そうだこれは扉なのだ。そう思いついた途端、扉は勝手にごそりと開く。続く道は暗いのでなく黒い。僕は息を止めて朝に向かって歩いてゆく。