Redundanz

僕の言葉は、人と話をするためにあるんじゃない。

哲学探究を読む(28)

第51節。これまでの議論は『テアイテトス』の言語観を論駁するためのものだった。『テアイテトス』の言語観とは、世界には「原要素」が存在し、それが名指されることで、対象と記号の、すなわち世界と言語の結び付きが作られているという言語観である。人…

哲学探究を読む(27)

第50節。原要素についての議論の続き。 それでは、要素については、存在するとも存在しないとも言えない、と言うのはどういうことのなのか? この問いがそもそもどこから出てきたのかというと、第46節の『テアイテトス』の引用である。「それ以外の規定…

哲学探究を読む(26)

また前回から日にちが開いてしまった。誰に対しての言い訳かわからないが――というか言い訳とは本質的に自分に対してするものである――書いておくと、去年から職場(現時点基準だと前職)の人たちと『青色本』読書会をしていて、それがまだ続いている。正確に…

転職

5月いっぱいで現職を退職し、6月から東大のとある研究室で労働することになりました。役職はリサーチエンジニア、ということになっている。現職には、アルバイト時代も含めれば、かれこれ7年以上勤めていたことになる。長いこと居座ったものだ。よけいな…

自分のこと

三十歳になって自分という人間について考えることが増えた。昔は、自分という人間をただの《私》の乗り物くらいにしか思っていなかった。とまで言うと言い過ぎかもしれないけれども、この宇宙に一点だけの超越という側面が前に出すぎていて、自分の他の性質…

つまらない箱庭のこと

村上春樹『ノルウェイの森』をぱらぱらと読み返していた。永沢がワタナベ(と自分自身)を評して「自分が何を考え、自分が何を感じ、自分がどう行動するか、そういうことにしか興味が持てないんだよ」と言っていて、それが妙に印象に残っている。ありきたり…

0110

この世に生を受けた人間がまずはじめにやらねばならないことは、世界に合わせて自分の形を整えることである。自然法則から服の好みに至るまで、世界は既存の区画線に満ちている。その区画線に、自己の内の区画線を一致させること、それができて初めて、人は…

注意

自分の内側をつねに減圧しておくことだくぐもって遠い心音が厚いガラスの向こうに聞こえる純粋意識は夢に空いた穴 完全な真空さめればさめるほど私の時計は自由になる羽毛と鉄球の区別は失われ記号たちは烏にまじって遊んでいる しかし私は singularity にな…

過程

閉じた目蓋のうらの暗闇は星空よりも広くなければならない。湖の底でたゆたいながら、肌になじむ水の動きに心をとかし、何もないことに耐えかねた空間がふつふつと泡立つのを待つ。指先のみを頼りに、光と闇の隙間から鍵を拾い上げるとき(もちろんそれは誰…

左利き日記3

哲学探究を読む(25)

なんやかんやで一年経ってしまった。もう少し時間をうまく使わねば。がんばれわが前頭葉。 ある特定のゲームの外部で「この対象は複合的か?」と問うことは、ある幼い子供がかつてやったことに似ている。その子供は例文に出てくる動詞が能動態か受動態かを言…

圧縮

無限に大きな紙が不気味だったので折りたたんで折紙魚にした冷たく重い水の底二度あることが三度ある場所 だから一枚の鱗は無限に重なる超越論的議論の帰結はそう示唆するものの確かめることはできずそれゆえ知性が立ち上がる無視された差異の残響折り出され…

左利き日記2

左利き日記

0508

なんとなく気に入っている写真シリーズ。

0506

精神が停滞しています。意識のアクセルを踏み抜けなくなった。 現実とフィクションを区別するとはどういうことだろうか。フィクションを特徴づける性質としてぱっと思い浮かぶのは、1.作り手が存在すること、2.認識にメディアを必要とすること(一次感覚…

0226

われわれは言葉を用いて言葉について考えることができる。文は主語と述語から成ること、動詞や形容詞といった品詞の区別が存在すること、言葉には意味があること、などのことを、われわれは言葉を用いて記述することができる。いままさに僕がそうしているよ…

0211

誰も加害されない完全な社会のためには、まず完全な罪の体系が規定されねばならない、当然のことながら。「加害者」を処分するにあたり、その正当性が何らかの基準に裏打ちされていなければ、そしてその基準を(加害者を含めた)全員が認識していなければ、…

哲学探究を読む(24)

無我夢中で何かを成し遂げるのと、あらゆる瞬間に意識をとどめつつ何もしないのとでは、どちらが人生の浪費だろうか。充実した過去/未来と透き通った現在、どちらがより深い満足をもたらすだろか。 第46節。『テアイテトス』におけるソクラテスの発言が引…

習作 20210814

おのれの内の生活の獣が寝静まる夜冷蔵庫のコンプレッサーがにわかにうなりおれはしわくちゃの手紙をていねいに引き伸ばすこの文面に意味があったとき、自分はどんな形をしていただろう? かつてと変わらぬ姿のままで色褪せてしまった言葉たちにもはや再生の…

哲学探究を読む(23)

ひと月くらい前からちょっとした研究を進めていた。なんでもいいから出来そうなことをやって論文を出そうという不純な動機ではじめたものである。そこそこ良い結果が出て、不純な研究なりに楽しくなってきたところだったのだが、先日 CVPR 2021 をオンライン…

後期ウィトゲンシュタイン哲学における文法と必然性

大学の卒業論文をここに転記しておく。オリジナルファイルを紛失してしまい pdf からコピペしたものなので、ところどころおかしな部分がある。後日修正する。 今読み返すと至らない点ばかり目につくが、後期ウィトゲンシュタイン哲学の簡単な解説として多少…

哲学探究を読む(22)

第37節。「名と名指されるものの関係とは何なのか?」もしそれが「精神」でないのだとすれば。「それは、場合、場合で様々なことなのだが、ある場合には、名指されたものにその名が書きつけられているということであるし、あるいは、名指されるものが指さ…

哲学探究を読む(21)

このところどうも気負いが生じてしまって哲学書の類を読めなくなっている。無駄に意気込んですぐ精神を疲弊させてしまう。数学の本を気軽に読み進められるようなってきたのと対照的である。これはよくない。もっと気楽に、もっと適当に、しかし集中力は維持…

例外

この世界は印刷された物語で、登場人物の僕がいくら暴れてみせたところで、それもまた静謐な明朝体の配列に過ぎず、紙面が破れたりはしない。しかしいつの日か落丁の一つでも作ってやりたいものだと思う。 このお話から脱出するという考えと比べれば、それ以…

哲学探究を読む(20)

3月があまりに忙しかったため精神の調子を回復させるのに時間がかかってしまった。生きるために労働をしているというのにこれでは本末転倒である。 気を取り直して第34節。 それでも誰かが次のように言ったと仮定してほしい。「形に注意を向けるとき、私…

哲学探究を読む(19)

労働において自分の関わるいくつかの案件が山場を迎えており、哲学書を読むような気分を維持できずにいた。現実的な問題を解くことにエネルギーを投入している間は、そうした「現実」を前提から支えている枠組みに対する懐疑の気持ちは弱まってしまう。かつ…

哲学探究を読む(18)

1月後半はずっと体調を崩していた。熱が出たので covid-19 を疑ったが、郵送 PCR 検査を受けてみると陰性で、病院で診てもらったところウイルス性の扁桃炎ぽいとのことだった(しかしどこから感染したのやら、ほとんど引きこもりの生活をしていたというのに…

哲学探究を読む(17)

ここのところ隔週更新になっている。もう少しペースを上げていきたいところである。『探究』を読むという以外にも、今年は、自分の思想を体系的にまとめたり、ちょっと長めのお話を書いたり、といったことにも挑戦してみたいなと考えており、まあ考えている…

哲学探究を読む(16)

どうも自分は、頭が煮詰まると身体(とくに眼)を動かして退路を探る癖があるようで、結果としてノイズが脳に入力されて考えが拡散する。で、気が乗らない問題を考えていたような場合には十中八九戻ってこない。集中力の増進のためにはじっと身体を固定する…