Redundanz

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セミの話

 2^57885161-1年ゼミは、素数ゼミ(メルセンヌ素数ゼミ)の一種である。これまで発見されたものの中で、もっとも幼虫期の長いセミとして知られている。そのライフスパンの長さから、定常宇宙説が再び脚光を浴びる原因となった。最近では天然のメルセンヌ・ツイスタとして機能している可能性が取り沙汰されている。
 近年の巨大素数研究において新種の素数セミの発見は重要なファクターとなり得る。素数セミは素数年のライフサイクルを送る故に素数セミなのであり、したがって新種の発見はそのまま新しい巨大素数の発見につながる。情報軍ではセミの卵に公開鍵を注入することでRSA暗号を破る試みが行われているとまことしやかに囁かれているが真偽の程は定かではない。なんでも、巨大素数同士の積を食って育ったセミはその素因数をライフスパンとして設定するという話が根拠になっている。
 ところで素数セミが素数年を活動周期とする理由には諸説あり、最も有力なのが、素数年ごとに同時発生することで捕食者が同期して発生するのを防ぐためではないかというものだ。このお話からは一つの想像が可能である。巨大素数ゼミが登場した背景には、また巨大素数を生活周期とする捕食者が存在したのではないかというのがそれだ。今のところそのような天敵は発見されていないが、将来発見されないとも限らない。素数ゼミとの素数年耐久バトルに敗れ去った可能性ももちろんある。そもそも彼らは人類の生活時間から見て長大過ぎるスパンを生きているのであり、彼らとの遭遇は必然的に一期一会にならざるを得ないのだから、ふと昼寝をしていた隙に遭遇の機会を逃してそれきり、なんてこともありうる。そしてそれは同時に、彼らの生存戦略の有効性をも示している。
 生活周期に細工をすることで天敵から逃れるという発想は、素数ゼミに限定された話ではない。例えば、虚数ゼミというセミは虚数年単位で大発生することで知られている。実数時間を生きる人類とは時間的に直交しており、普通に生きていればけして交わることがない。人類が虚数空間を発見し、その探索に乗り出すまでその存在は闇に包まれていた。
 さて、この虚数ゼミは驚くべきことに他の実数ゼミと交配が可能である。実数ゼミと虚数ゼミの子は大方の人が察する通り複素ゼミであり、その生物周期は両親の遺伝情報の影響を受けつつ様々に設定される。沢山の幼虫たちはてんで気ままに複素空間へと散ってゆく。時折、他の複素ゼミの生活周期と交差しては交配し、そしてまたバラバラの方向へ拡散してゆくことを繰り返す。それらのセミの挙動は一種のアルゴリズムを成していると言われており、それが、巨大素数ゼミの演算能力を支えていると考えられているが、広大な複素空間における生態調査は未だ困難であり、おとぎ話の段階を出ていない。今後研究が進めば、セミたちのより詳細な生態を知ることが出来るようなるだろう。同時により多くの謎に直面することにもなるに違いない。巨大素数ゼミ達はその共鳴室に深淵をたたえて、今日も元気に鳴いている。