Redundanz

僕の言葉は、人と話をするためにあるんじゃない。

救いの話

 昔のことを思い出していました。小学五年生の頃だったか、僕は通っていた学習塾の合宿に参加しました。その塾はそれなりに大きくて、九州各地にたくさんの校舎を持っていたのですが、それぞれの校舎の生徒たちが一同に会すのです。たくさんの小学生たちがクーラーの効いた大部屋の中でかりかり勉強する光景は今思うとかなり異様で、受験業界の闇!という感じがしますけどこの話の本筋には関係ないので置いときましょう。そもそも僕はあんまり勉強せずに、消しゴムをねり消しに錬成してばっかりいたような気がします。
 僕の所属していた校舎は、県内で二番目くらいに大きなところで、それはまあ僕の出身の市が県内で二番目に大きかったからそう思ったけど実際はどうか知らないな。ともかく、一番大きいわけではなくて、だから合宿の参加者は僕含めて数人しかおらず、部屋割や集団行動は、県内で一番大きな校舎の生徒に混じる形になっていました。彼らとはそれ以来けっこう長い付き合いになります。第一印象は、変だけど面白い人たちだなあというものでした。僕も小学生だったので、今ほど人付き合いが苦手ではなく、自然に彼らとうちとけて、そこそこ楽しくやっていたよう記憶しています。
 さて、合宿が終わってしばらくたって、僕はその県内で一番大きな方の校舎にも時々通うことになりました。そちらのほうがレベルの高いコースがある、とのことでした。これもなんか気持ち悪いですね。
 で、記念すべき初登校の日。はじめての校舎をぐるぐる回って、目的の教室を発見したは良いものの、やっぱりどうして僕は怖がりで、戸を開けて中に入るということがどうしてもできなくなってしまったのです。場違いなところへ来てしまったという気がしたし、どういう顔で入ってゆけば良いのか、彼らはどういう反応をするだろうか、いろんな考えが頭をめぐりました。そうなってしまうと、もうダメです。何かきっかけが起こるまでじっとし続けることになります。
 そんなとき、中にいた生徒の一人が僕に声をかけてくれました。合宿に来てた人だよね、と。天の助けだと思いました。それで、僕はフリーズから回復して、普通に、当たり前のように教室に入ってゆくことが出来たのです。今でも時々、あそこで声をかけてもらえなかったらどうしただろうと考えることがあります。救いってこういうことを言うのかなと思った次第です。
 良い話でした。