Redundanz

僕の言葉は、人と話をするためにあるんじゃない。

たぶん続かない話

 お話をしようと思う。僕が経験したとても奇妙な物語、あるいは、僕がこれから考えるありきたりな物語。両者に大した違いはない。思い出すことと思いつくことの間にあるものは、そういう過去があったかどうかという程度の差異でしかないのだ。その過去を知っているものが、今や僕しかいない状況にあっては尚更だ。
 何から話し始めたらいいんだろう。事の始まりがなんだったかっていうのは、あんまり自明じゃない。天地開闢から話し始めることにだって正当性はある。でもそれだといくら文字があったって足らないに決まっているから、どこかにはじまりの線を引いてやる必要があり、僕はそういうのが苦手だ。必然性のない行動にははいている靴がびしょ濡れになってしまった時のような居心地の悪さが伴う。まあ、そういう時はいっそ踝まで水たまりに浸してしまうのがいいってことを僕は小学生の時に学んでいる。だからそうだな、ひとまず、僕の幼馴染であるところの名探偵(その時はまだ名探偵志望にすぎなかったのだけど)が僕の部屋にやってきたところから話し始めよう。あれは多分、高校の期末試験が終わって一息ついた、土曜日の昼下がりの出来事だった。