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Redundanz

僕の言葉は、人と話をするためにあるんじゃない。

Nyan-Nyaki!

今日は眠い日でした。(ちゃんちゃん)
即興小説トレーニングというwebサイトで小説書いて遊んでいたら、これ以上文章を書く気力がなくなったので、今日はそれを貼り付けて終わり。
http://webken.info/live_writing/novel.php?id=16326
お題:ダイナミックな勝利 必須要素:グミ

 ええと、僕は今、即興小説トレーニングなんてものをしている。与えられたお題で、制限時間内に小説を書きましょうという趣向らしいのだけど、余り説明を読まずにとりあえずで始めてしまったら、制限時間120分となってしまった。これは困る。30分くらいを予定していたのに。フムン。どうしたものかしらん。
 適当に、一人称僕で書き始めてしまったけども、これは良くない。この僕はつまるところ、これを書いている僕だ。どうせこの僕は東京の大学に通う大学生で、というふうになるに違いない。なぜならそれが、筆者であるところの僕のプロフィルだからだ。そうなってくると、この文章は小説ではなく独白ということになり、本来の趣旨と少々違ったものになってしまう。僕は、日記が物語になってしまうような、素敵な日常を送ってやいないのだ。
 ところで僕には、文章を書くという事が絶望的に出来ない。まず、ボキャブラリが貧弱で、それから想像力もない。想像力の欠如、これは作家としては致命的だ。まあ僕は作家ではないから、それでも生きてゆくことは出来ている。けれども、僕の日常は色彩を欠くし、僕の空想も同様だ。くだらない男が、せめて頭の中でだけでもとつくり上げる、過剰の自意識にまみれたハリボテの自分。それが僕の想像力の全てということになる。
 webページの上部に表示される残り時間は108分。開始から12分が経過している。これだけの時間があれば、近くのコンビニに行って帰って来るくらいのことは出来るはずだから、本当なら僕はいま、温かい飲み物でも買ってきて飲んでいたかもしれない。僕は一体何をしているのだろう、よくわからなくなってきたぜ。
 小説というからには、このあたりで登場人物など導入してみるといいかも知れない。例えば、アパートの隣の室に住む、大学生の女の子とか。実際のところ僕は隣の部屋の住人が男か女かさえ知らないのだけど。そういえば、お隣さんと廊下で顔を合わせる確率ってどれくらいなものなのだろう。その住人の生活リズムなんて知らないから、まあ彼が1日にランダムに10度部屋に出入りするものとして、廊下にいる時間を10秒ほどとすると、ええと。だいたい1日当たり0.2%くらい。結構な低確率だけども、実際はもう少し大きいだろうな、とは思う。閑話休題、お話が脱線し過ぎた。
 それとも、龍なんか出してみて、ファンタジイ方面へシフトしてみるのもありかもしれない。せっかくこの世界には、言葉の決まり以上の制約が存在しないのだから、ほら、画面から目をそらし振り返って窓の外を見ると、そこには巨大な緑色の眼があって、僕をじっと見つめている。彼女の名前は、ええと、そうだNyan-Nyakiだ。Nyan-Nyakiということにしよう。
 Nyan-Nyakiは龍だ。4つ足で立って、ここアパートの2階の窓を覗き込めるくらいの大きさ。白くて、磁器みたいな鱗を一斉にざわめかせて、伸びをする。鱗の一枚一枚が、まるで誰かがデザインしたかのような、有機的な美を纏っていて、しかも、それらはとても硬いことを僕は知っている。なぜなら、そういうことになっているから。例えば、ここに一冊の本がある。それは、誰かに書かれたものである。僕がその本について、それ以上語らないがゆえに、そういう本が存在しうる。言葉の世界の性質だ。読者が、それが在ることに気付かされる、けれどその正体を知ることは叶わない。主人公の独白や、地の文上に落ちた影として、正真正銘に、物語的に、実在する。そういう形で、Nyan-Nyakiは僕の部屋をのぞき込んでいる。ところで、さっき例えとして持ちだした本には、何が書かれていただろうか。ページを紐解き、冒頭を読んでみる。
<ええと、僕は今、即興小説トレーニングなんてものをしている。与えられたお題で、制限時間内に小説を書きましょうという趣向らしいのだけど、余り説明を読まずにとりあえずで始めてしまったら、制限時間76分となってしまった。これは困る。30分くらいを予定していたのに。フムン。どうしたものかしらん。>
 これはいったい、どういうことだ。驚愕とともに、僕は自分の書いている文章を、PCの画面上で読み返す。本に書かれているものと、一字一句違わない文言が、そこに並んでいる。そしてそれは、予想されているべくして起こった事態であるような気もする。
「ねえ、Nyan-Nyaki、これは一体、どういうことだと思うかい?」
「これって、何を指して言っているの?」
返事をしたのがNyan-Nyakiで、僕が家で飼っている猫だ。緑の瞳の、ちょっと大きな雌の黒猫。
「これだよ、僕が今書いている小説が、この本に既に書いてあること。僕はこの本、読んだことも、見たこともないんだ。さっき例え話に登場させたばかりだったっていうのに。」
Nyan-Nyakiは尻尾を?の形にして不思議そうに訊く。
「それの、どこがおかしい?」
「だっておかしいだろ。こんなことがあっていいはずがないんだ」
「こんなことがあってはいけないと、何があなたにそう思わせるか、考えたことがある?」
Nyan-Nyakiはいたずらっぽく口を歪めて、それから妖艶に躯を捻って、言う。
「それは、文法と呼ばれる概念。あなたは、全ての事象が許される物語を書いているつもりかもしれないけれど、その実、局所的な空間に閉じ込められていることに変わりはない。物語っているつもりで、物語らされている、だから、そういう事態を招く。」
「文法?」
「そう、あなたは青色と黄色が同時に同じ概念空間を占める可能性や、私が猫であると同時に龍であり得る可能性に、気付いていない。」
どういうことだろう。僕には、理解できない。ちっとも。頭が、ぎゅうと熱くなる。
「理解。理解という行為。そんなものはただの錯誤。それがあなたを本質から遠ざけている。理解は、思考は、制約が存在して初めて成り立つもの。そんなものは捨ててしまうといい。」
「僕は、どうすればいい?」
Nyan-Nyakiは、風に頁をはためかせて、言う。
「わたしを読みなさい。続きを、最期まで。」
そうして僕は、Nyan-Nyakiを抱きしめる。力いっぱい。

 小説を書き終えて、僕はエディタを閉じる。椅子の背もたれに体重を預けて、うんと伸びをする。室内は少し寒い。温かい飲み物が飲みたいなと思い、コンビニへゆくことにする。
 コートを羽織って、靴を履き、玄関を開ける。そのガチャリという音が、いつもより大きいなと感じて、それから、隣の部屋の住人もドアを開けるところだったと気付く。
「やあ、Nyan-Nyaki」
「偶然ね。だいたい、0.2パーセントくらいの。」
彼女は、隣の部屋に住む大学生の女の子だ。そのふざけた名前は、彼女の世を忍ぶ仮のもので、僕は本名を知らない。知りたいなとも、特に思わない。時々、世間話をしたりする程度の間柄。
「どうしたの、こんな夜更けに。」
「んー、ちょっと、グミが食べたくなったのよね。あなたは?」
「僕は、温かい飲み物が飲みたくなってね。」
「あら、じゃあゆくさきは同じみたいね。」
「そうだね。」
そうやって、僕たちはコンビニへの道を歩き始める。Nyan-Nyakiのはく息が白い。そろそろ、冬が本格的にやって来る。人肌が恋しくなるなあ、とか。
 Nyan-Nyakiは寒さを物ともしない様子で、すんすん進む。これから買いにゆくものでも想像しているのか、その整った顔を、笑顔のかたちに曲げている。それが、僕にはとても眩しい。
「帰りに、家に来ない?」
そんな言葉が、僕の口から、自然とこぼれ落ちる。
彼女は、隣の部屋に住む女の子で、龍で、猫で、本で。それから、僕が恋する女の子なのだった。
にゃんにゃん。