Redundanz

僕の言葉は、人と話をするためにあるんじゃない。

0906(インド2日目)

 旅行会社との戦いの一日でした。

 ニューデリー駅には人がたくさんいて、少なくとも街中よりは安全そうな雰囲気がありました。とりあえずホームに入ってベンチで休むことに。自動改札なんてなくて、単にそれだけで巨大な宮崎駅だなあと思ったり。駅のスピーカーからWindowsXpの起動音が聞こえるなどして、少し可笑しかった。日本人はこういうところ完璧主義だよなあ。
あと、インド人はどこででも寝転がるのですね。地べたに腰を下ろすことに抵抗がないようです。
 朝が来て、とりあえず市街地の方へゆき、宿や日用品の確保をしようと駅員(嘘)らしき人に話しを聞くと、今は祭の時期で、ムスリムとヒンディの間で激化しており(事実ぽい)、外国人は中心市場への入場許可証が必要(嘘)だから、政府の観光センタ(嘘)で発行しておいでと言われました。というわけで指示された場所へ行ってみると、オフィスの中へと通され、片言の日本語をしゃべるお兄さんと話をしました。日本語を解すインド人には、昨夜の時点で警戒心を抱くようなっていたのですが、日本語の勉強をしていて、今度大分の大学へ交換留学生として行くのだ(本当かも。)などと聞いているうちに少し信用するようなっていました。(良くない) ここはDTTDC(インド政府のやってるデリーの観光会社)だなどというのを信じてしまったのも敗因です。DTTDCを騙って客引きをする悪徳旅行会社は多いと聞いていましたが、彼は聞かれて初めてそう答えましたし。気付いても良かったのですが、睡眠不足で頭が回っていなかったようです。
 そのうちに彼は、祭りの影響でインドの鉄道は非常に混んでおり、せっかくだしここで鉄道の切符を買ってゆかないか、少し高いが我々が予め確保しているものを渡すことができるなどと提案し始めました。鉄道の切符をどうやって買おうか迷っていたし、この際ここで買ってしまってもいいかという気分に。ついでに彼は、初めての街で宿を取るのは危ないから最初の一泊だけホテルも予約しようと言い出します。完全にツアーを組まれている状況なのですが、脳髄が機関停止している僕は気づきません。40000ルピーと割高だったけども、ホテル込みでこれならまあいいかと、お金を払ってしまいました。1ルピーが1.5円ほどであることを頭でわかっていても実感しにくいことも、金銭感覚の狂う要因ですね。ドルのレートに慣れていると1ルピー<1円であるような気がどうしてもする。
 例の兄さんは、まずは寝たほうが良いとホテルを用意してくれて、ぼくはそこで寝ました。
快適な部屋で、疲れた僕にそれは救いでした。シャワーが水しか出なくて、少し寒かったけど。
 しばらく寝て起きて、今までのことを思い返すと、怪しい点多数が思い当たりました。そもそも提示されたプランが、地球の歩き方に例として掲載されていた旅行会社トラブルのものとに非常に似通っているのです。これはやらかしたなと思い、仕方がないのでもう一度そのオフィスへとゆき、受付の人間に(さっきのお兄さんではない)キャンセルしたい旨を伝えました。すると、キャンセル料が50%かかるなどとふざけたことを言います。それは流石に痛いので、相手の理屈に穴を見つけられないかと話を聞いていると、彼らがDTTDCを騙ったことをタネに脅せないだろうかと思い至りました。あなた方は政府直営の旅行会社だと言ってそれを僕は信用した(僕の落ち度である)、しかしここは僕の知るDTTDCと住所も電話番号もウェブサイトも違う。どういうことだ、警察に電話するぞと。すると彼らは今度は、自分たちはDTDCという政府のライセンスを取って営業している旅行会社だと言い出します。しかし、その数分前に、ここはDTTDCデリー観光局かと聞いて確かにYESと答えたのを僕は忘れていないし、やはり警察に言おうと携帯に100を入力した時、にわかに担当の人間が変わりました。(これは悪徳会社の常套手段ぽい) そしてキャンセル料は25%で良いと引き下げてくる。粘ればもっと引き下げられた気はするのですが、正直もうそこにはいたくなかったし、それで妥協することにしました。インドの洗礼だとでも思えばいいさと自分を納得させて。もし彼らが正直に言ってくれていたなら、この価格でも了解したかもしれないのだけども、自らを詐称した一点において僕は彼らを信用できなかったのでした。
 インドに来て以来何も食べていなかったので、まずは空腹を癒やそうとマクドナルドに入りました。インド初の食事がマクドナルドのチキンバーガー(当たり前にビーフはなかった)
というのも物悲しいが、今回ばかりはマクドナルドの普遍性(虐殺器官でこんな言い回しあったよね)がありがたかった。この時点で、ある種の「熱心な親切さ」の危険性を理解し始めていたのですが、さすがはインド、今度は更に巧妙な手で騙されかけました。
 マクドナルドでハンバーガーをぱくついていると、隣にいた背の小さな(本当に低い)インド人が僕に話しかけてきましました。(今にして思えば、彼は僕がオフィスを出てから僕をつけて来たのだろう)良い靴を履いてるねとか何とか。(身につけているものを褒めるのは、彼らが話しかける際の常ぽい) 僕が旅行会社ともめて、それから逃れて来たのだというと、それは酷いと同情してくれました。彼は、彼の父がかつて日本へ行った時、日本人に親切にされたから、そのお返しとして君を助けたいなどと言い、いろいろと話をしてくれました。人から聞かれた時に、昨日インドに入国したなどと言ってはならない、せめて一週間前に入国したと言うべきだとか、ガイドブックを外で読むべきではないとか。ためになるアドバイスも多くありがたかったのだけど、それは本当は当たり前の話で、彼は彼がいつも利用している知識の裏返しを話すだけでよかったのでした。
 彼がコーンノートプレイス(ニューデリーの中心街)を案内してくれるというので、とりあえずついて行くことにしました。まず辺りの地理が全然分からないし、彼から何か有用な情報を引き出せるかもと思ったのです。彼は先にホテルを取ったほうが良いと言い、友人がホテルをやってるから空き部屋があるか聞いてやると電話してくれました。部屋が開いていたようで、リクシャーでホテルへ。700ルピーにしては非常に良い部屋で(まあ裏があったのだけど)、その時点で僕はかなり彼に好感を持っていました。ホテルの部屋でしばらく話をしたのですが、彼の名前はジャンプゥと言い、例の父親と一緒にメガネ屋をやっているとのことです。彼はそこでもまたいろいろ忠告をくれ(結構重複する話題が多かった(伏線))、雑談などに興じたあとコーンノートプレイスに戻り、一緒にカレーを食べたり(インドの料理は総じて砂っぽい気がした)、店に連れてゆかれたりしました。その連れてゆかれたのが明らかに旅行者向けのものだったので、やっぱり彼もマージンを受け取っていたりするのかねとがっかりはしましたが、彼は旅行会社でプランを組んだほうが良いと薦めつつも無理に旅行会社に連れてゆくことはしなかったので、あまり悪い印象を持つことはありませんでした。
 ところが、夕方になりそろそろホテルに戻る時間になると、彼はしきりに明日はどうするのだと聞くようになりました。まだ決めていないと答えると、それではいつまでもデリーにいることになるぞ、この街は危ないし高いし、とりあえず次の街への切符を買ったほうが良いと言うのです。確かに一理あるなと思い、そうしたい旨を伝えると、連れてゆかれたのはまた旅行会社でした。しかもこれも胡散臭いのです。ジャンプゥはインド政府観光局だと言って僕を連れて行ったのですが、インド政府観光局は切符の販売なんてしていないし、そもそも場所が違う。それを指摘すると、だからこっちの方に来たんだなどと言い出します。そして鉄道だけで良いというのに勝手にホテルを付け始めるし、これは完全に敵です。とするとあのホテルも怪しくなってくる。仕方がないから、明日もう一度来てもいいか、旅行会社では何度もトラブルに見舞われているから、慎重に考えたいと頼むことにしました。案の定、向こうは、何を考えることがあるんだ、時間を無駄にするぞ、これは友人としての忠告だなどと説得してきます。友人なら僕の判断を尊重してくれよと頭の中で叫びながらゴネていると、わかった、明日はデリー観光をしないかと提案されました。250ルピーで市街を回ってやるといいます。どうせ僕を拘束するための方便なのですが、僕はこの提案に乗ることにし、それによってその場を解放されました。彼らは明日の朝ホテルまで迎えに来るというので、それから逃げる方法を考えねばなりません。
 とりあえずホテルに戻って、ホテルの無線LAN回線を借り、出されたチャイを飲みながら(インドのチャイは美味しいです)、その旅行会社について調べていると、とある日本人のブログに背の低いおっさんとしてジャンプゥの顔写真が載っていました。これは奇跡的な偶然なのか、彼の精力的な活動の成果なのか知りませんが、この事実に僕はしばらく笑って、その後の記事を読み進めると、やはり事態は悪い方向へ向かっているようでした。ますます逃げねばなりません。旅行会社からの迎えが来る前に逃げ出さればと目覚ましを六時にセットし、そのまま早めに眠りました。