Redundanz

僕の言葉は、人と話をするためにあるんじゃない。

0905(インド一日目)

 荷物の再確認をして、昼頃過ぎに成田空港に向かいました。僕はなんの根拠もなく羽田と成田は近いところにあるという印象を持っていたのだけど、それは盛大な勘違いで、電車で二時間以上かかった。成田に入るとまずセキュリティチェックがあって、ここは国際空港なのだなあということを実感。ひとまず航空券を受け取りにゆき、それから福岡にいる妹に荷物を送りました。いくつか送らねばならないものがあったのを出発当日まで忘れていたのです。空港の郵便局で投函して、次は円を両替せねばと両替所へ行ったのですが、ここで航空券を持っていないことに気づきました。うっかり妹の荷物に紛れ込ませてしまったようなのです。郵便局までゆくのも面倒だったので、ANAのスタッフに頼んで再発行してもらいました。出発前からこれでは先が思いやられます。(伏線)

 搭乗・出国手続きを済ませて搭乗ゲートに向かうと、いかにもインド人な人たちと、いかにも旅行者な人たちで溢れていました。(当たり前だ) 彼かを観察しているとみんな荷物がかなりコンパクトで、僕ももう少し持ち物減らしてくればよかったかなと後悔したけども、まあ持って来てしまったのだから仕方がない。
 飛行機の中は少し窮屈でしたが、概ね快適なフライトでした。二度目のスタートレックを見たり。機内食はまあまあで、飲み物も頻繁に出てきた。隣のお兄さんがビールばかり飲んでいたのが印象に残っています。
 インド上空に来ると、窓からオレンジ色の街の明かりが見え始めました。その統一感のある異質さは、SF映画にありがちな違う惑星のイメージに相まって、ああ僕は違う世界にやってきたのだなということが強く実感されます。

 インディラガンディー国際空港に着陸して機を降りると、空港は案外普通でした。(普通とは) 自販機のラインナップがいかにもノット日本だったり、トイレの性別の標識としてターバン巻いたおじさんとサリーを着た女の人の画像が使われていたりと異国っぽさも多少あったけども。壁にはられた広告を見て、韓国の企業が幅を利かせているのだなあとか、広告の抽象度合いと経済発展の度合いには相関があるのではとか考えていると、入国審査へ。機内で書いた書類をパスポートと一緒に提示するとするりと通過できてほっとしました。ボールペンを持っていなくて、シャープペンで書いたことが少し不安だったのだ。
 着いたのが深夜だったので空港のロビーは閑散としていました。僕は朝まで空港にいて、それからデリーへ向かうつもりだったのですが、朝までに時間があり暇だったので空港内を探検することにしました。思えばこれがインドに来ての僕の第一の失敗で、僕は間違えて空港から出てしまったのです。自動ドアの先もまだ空港の中だろうと思い込んでいたのだ。それて、仕方がないので適当なタクシーに乗ってデリーまでゆこう、ひとつくらい宿があるだろうと安易に考えたのが第二の失敗。タクシーの運転手ぽい人物に話しかけたところ、スタンバイしている他の運転手に車に案内されました。この時点で背後に何らかの組織があるだろうことを感じたので、さてどうしようかと頭を巡らせます。運転手は親しげに話しかけてきて、一見和気あいあいとした雰囲気なのですが、僕は気が気ではない。ところでインドの交通事情は結構適当で、信号なんてあってないようなものでした。その分巡航速度は40キロ程度と遅く、結局一定のルールを設けてその内側で頑張ったほうが合理的よねとか。日本みたいさ。
あれよあれよという間に、謎のツアリストオフィス(tourist information centerとかだったと記憶しています)に連れてゆかれてしまいました。案内人らしき人に話を聞くとこの時間はホテルなんて取りづらくて、しかも祭りが控えているから更に厳しい、デリーの夜は危ないから高くてもホテルをとるか(本当に高い)、ツアーを組んでいますぐ他の街に向かい、最後にデリー観光したほうがいいよとか、なんとかかんとか言ってきます。一応電話を貸すから知ってるホテルに電話してみなよとも言われたので、地球の歩き方のホテルの一覧を示すと勝手にかけ始めました。(怪しい) まず相手が電話に出るのが異様に早いし、必ず相手先のホテル名をこちらから伝えている。案の定部屋は開いていない。そこで、彼が次のホテルに電話をかける際に、親切に番号を読み上げるふりをして少しだけ間違えた電話番号を教えてみると、それでもホテルにかかってしまうわけです。受話器を受け取り話を聞くと、さっきの電話に出たのと同じ人間の声がする。あー、これは面白い手だなとひとしきり感心したあと、僕は朝まで彼らと話し合いながら粘ることに決めました。彼らが僕を開放しない根拠は、夜のデリーが危ないという一点のみだったので、日が昇れば何とかなるだろうと思ったのです。そんなこんなで相手の提案に難癖をつけて一時間ほど粘っていると、さすがに相手も疲れてきたのか、今度はホテルを回ってやるから車に乗れとさっきのタクシーに乗せられました。タクシー代を釣り上げる口実を与えてなるものかと出発を渋っていると、今度はオートリクシャー(動力付き三輪車)がやってきて、そちらに乗れと言います。タクシーの運転手はもう私の労働時間が終わるから、こっちに乗ってくれと、空港からデリーまでの運賃として法外な料金をふっかけてきました。一キロ18ルピーで150キロ走ったから2700ルピーだと。いやいや、あんたの車は平均50キロ以下で、しかも走行時間は1時間程度なのを知ってるんだぞと言うと15キロ走って一キロ180ルピーだからなどと言い出します。頭おかしい。口答えを続けてるとそろそろ運転手がキレそうだったので、それは危険だと思い仕方なく2000ルピーほど渡してしまいました。もちろん足りないと車を降りてきたのですが、すると今度はリクシャーの運転手がタクシーの運転手に掴みかかって追い払ったのです。(明らかにお芝居) これで旅行者の信頼をリクシャーの運転手に移せると考えているならちょっと無理があるでしょともはや苦笑する他なかったのですが、しかし地の利はあちらにあり、敵は人数も多いので騙されたふりをするしかありません。ここで完全に脅迫をせず、何としてでも僕の意思で契約させようとするあたりがなんかもうおかしかったです。このリクシャーに連れてゆかれたのも、先のツアリストオフィスと同じ名前の事務所でした。ここでも先ほどと同様のやりとりがあり、しかし明け方まで時間が減っていて焦りもあるのか、少しグレードの低いホテルを提示してきました。(それでも高いけど) 今回も頑張って粘ったのですが 、やはりまたさっきのリクシャーに乗せられてそのホテルへ向かうことに。これはもう諦めるかと覚悟を決めた先に、一寸の希望が見えてきました。連れてゆかれたホテルのそばに警察署があったのです。ホテルの前で、ここに宿泊しなさい夜は危険だから(確かに危険。野犬いっぱいいるし怪しげな人もいるし)となかば脅迫される好きを突いて車線を超え、警察署に逃げ込みました。何者だと彼らに訝しまれたのですが、パスポートを見せて事情を説明すると、一人の警察官がバイクで僕を運んでやると言い、それに従ってニューデリー駅へと辿り着きました。(初めてバイクの後ろに乗った。)さっきの旅行会社の連中は、僕が駅で一晩明かしたいというと、閉まっているから無理だの一点張りだったのだけど、実際は普通に開いており、電車を待っている人がたくさんいました。警官は一言グッドラックと言って帰ってゆき、その自然な親切と(ただの仕事なのかもだけど)、旅行会社の悪意との間の(これも仕事よね)ギャップにくらくらして、人は面白いなあ、と。人間の両方の極を見たように感じです。危険な経験だったのは確かだけども、割と好意的に感じている自分もいて、ちょっと僕は危うい状態にあるなあと考えたのでした。(伏線)